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[10] 0008. **邦題**

〈第10巻第0008章より〉

(Kisari Mohan Ganguli英訳から和訳)

http://sacred-texts.com/hin/m10/m10008.htm

訳者: ****

 
 ドリタラーシュトラは言った。
「かの強大なる戦士(マハーラタ)たるドローナの息子が、斯様にして敵陣の軍営に進み行ったとき、クリパとボージャ族の者〔クリタヴァルマン〕は、恐れから停まったのか?
 かの両の戦士が、卑しき守衛に見咎められ、敵が抗いがたいことを考え、隠れて逃げ去ったのでなければと思うが。
 あるいは、ソーマカ〔パンチャーラ族の支族の者たち〕とパーンダヴァを、その軍営を粉砕したのち、ドゥルヨーダナが戦いの最中に辿った、いと高き輝かしき道〔戦死〕に続いたのか?
 かの英雄たちは、パンチャーラ族の者たちに殺められ、地べたに寝ているのか?
 彼らは何らかの功業を成し遂げたのか?
 全て語ってくれ、サンジャヤよ!」
 
 サンジャヤは言った。
「高潔なるドローナの息子が軍営に進み行ったとき、クリパとクリタヴァルマンは門に停まりました。
 彼らに尽力する用意ができている様子を見ると、アシュヴァッターマンは喜色に満たされて、囁き声でこう言ったのです。
 陛下!――
『貴方がた二人が尽力すれば、クシャトリヤの全てを殲滅できる力がある!
 (パーンダヴァ)軍の生き残り、まして眠りに落ちているとあっては、言うまでもないことだ。
 私は軍営に入り、ヤマ〔冥王〕の如く突き進もう。
 一人として命を持って逃げ遂せる者のないよう、貴方がた二人は間違いなく振る舞ってくれるだろう。』」
 
 そう言うと、ドローナの息子はプリターの息子たち〔パーンダヴァ〕の広大なる軍営に入っていった。
 全ての恐れを棄て去り、彼は扉なき場所から侵入した。
 強力なる英雄は、軍営に入り込むと、(しるし)に導かれて、静謐に、ドリシュタディユムナの居る軍舎に向かった。
 パンチャーラ族の者たちは、偉大なる功業を成し遂げて、戦いに疲れ果てていた。
 彼らは安心の内に、寄り集まって、隣り合って眠っていた。
 バーラタ族の者〔ドリタラーシュトラ〕よ!
 ドリシュタディユムナの部屋に入ると、ドローナの息子は、パンチャーラの王子が目前で寝台の上に眠っている様を見た。
 上質な最高の寝台で、美しい絹の敷布に、彼は横たわっていた。
 素晴らしい花飾が、寝台に撒き散らされ、香料(ドゥーパ)の粉末が香り立っていた。
 陛下!
 アシュヴァッターマンは、安心して恐れを忘れ寝台で眠っている高潔なる王子を、蹴り飛ばして起こした。
 戦場で抗い難く計り知れない魂を持つ、その王子は、足蹴にされた衝撃で、睡りから醒め、ドローナの息子が目前に立っていることを覚った。
 彼が寝台から起き上がろうとしている内に、強力なるアシュヴァッターマンは、彼の髪を鷲掴みにして、腕ずくで地面に押さえ付けた。
 このように、アシュヴァッターマンにより凄まじい力で押さえ付けられて、王子は、恐怖と睡魔のため、その瞬間、力を奮うことができなかった。
 陛下!
 獲物が苦悶して悲鳴を上げている中で、その喉と胸を足蹴にしながら、ドローナの息子は、獣〔を屠殺する〕かのように彼を殺そうとした。
 パンチャーラの王子は、爪でアシュヴァッターマンを掻き毟りながら、ついに掠れ声で言った。
「我が師の息子よ、私を武器で殺してくれ、長引かせずに!
 最上者よ、汝の手で、私を高潔なる世界〔天界〕に往かしめてくれ!」
 
 そうとだけ言い終えると、パンチャーラ王〔ドルパダ〕の息子たる敵の殺戮者は、強大なる英雄の力に攻め立てられ、沈黙した。
 その掠れた言葉を聞いて、ドローナの息子は言った。
「貴様の一族の面汚しめ。
 師殺しのための世界〔天界〕などない。
 故に、愚か者よ、貴様は如何なる武器に殺される値打ちもないわ!」
 そう言いながら、アシュヴァッターマンは、憤怒に満たされて、獲物の急所を踵で暴力的に蹴りはじめ、いきりたった象を獅子が殺すように、敵を殺した。
 殺されんとしながら、かの英雄が上げる悲鳴で、天幕中にいる彼の妻たちと守衛たちは、みな目を醒ました。
 陛下!
 何者かが王子を超人的な力で捻り潰す様を見て、皆は襲撃者を何らかの超常的な存在と見て取り、恐怖のあまり叫び声も出なかった。
 このような手口で、彼をヤマの御許〔冥界〕へ送り出すと、強大なる力持つアシュヴァッターマンは、外に出て美麗なる戦車に乗り込み、そこに座した。
 陛下!
 いざ、ドリシュタディユムナの住居から出て来るや、アシュヴァッターマンは四方八方に雄叫びを轟かせて、敵を殺戮するために軍営の他の場所へ戦車を進めた。
 
 かの強大なる戦士たるドローナの息子が立ち去ると、婦人たちと守衛たちは悲哀から慟哭の声を轟かせた。
 己が君が殺害されたことを知って、ドリシュタディユムナの全ての妻は、大いなる悲嘆に満たされて泣き叫んだ。
 その慟哭により、数多の強大なるクシャトリヤたちは目を醒まし、鎧を纏うと、泣き声の理由を求めて、その場を訪れた。
 婦人たちは、アシュヴァッターマンの姿に恐れ慄いて、彼を即座に追跡するよう、痛ましい様子で男たちに頼んだ。
 女たちは言った。
「いずれ羅刹(ラークシャサ)か人間か、私どもは彼が何者であったか存じませぬ!
 パンチャーラの王を殺害してしまうと、彼はそちら〔プーナ校訂版によると戦車の車上〕に居りました!」
 その言葉により、最上の戦士たちはドローナの息子をたちまち包囲した。
 後者は、ルドラーストラ〔神秘的武器〕を使用して、戦士たちを皆殺しにした。
 ドリシュタディユムナと全ての彼の配下を殺害すると、彼はウッタマウジャス*1が寝台で眠っている様を凝視した。
 その喉と胸を足蹴にしながら、ドローナの息子はその強大なる英雄を、後者〔ウッタマウジャス〕が苦痛に身悶えするうちに、殺害した。
 ユダーマニユ*2は、その場を訪れると、同胞が羅刹(ラークシャサ)に殺害されたと信じ込んで、ドローナの息子の胸を棍棒で鋭く撃った。
 アシュヴァッターマンは、相手に向かって突進すると、彼を掴み捕えて地面に引き落とし、後者〔ユダーマニユ〕が甲高い悲鳴をあげるうちに、獣〔を屠殺する〕かのように殺害した。
 
 斯様にしてユダーマニユを殺害すると、かの英雄は、こぞって眠っている他の王の戦士に向かって突き進んだ。
 身を震わせて甲高い悲鳴をあげる戦士たちを、犠牲式における獣にするように、彼は皆殺しにした。
 それから剣を執って、彼は他の数多の者を殺害した。
 軍営のあらゆる道に沿って、次から次へ突き進むと、剣の扱いに熟達したアシュヴァッターマンは、あらゆる軍舎(グルマ)を凝視して、その中に眠る非武装の疲れ果てた戦士たちを殺害した。
 その優れた剣で、彼は戦兵と軍馬と軍象を斬り伏せた。
 全身血に塗れて、彼はむしろ(カーラ)により送り込まれた(アンタカ)そのものに見えた。
 度重ねて奮われる三種類の剣〔の技法?〕により、敵兵を震え上がらせ、アシュヴァッターマンは血を浴びた。
 血に塗れながら、燃えるような剣を奮うにつれ、彼の姿は、戦場を疾走するほどに、極めて忌まわしく超人的になっていった。
 カウラヴァ族の者〔ドリタラーシュトラ〕よ!
 眠りから醒めた者たちは、(周囲に響く)轟く騒音に呆然とした。
 ドローナの息子を目の当たりにすると、お互いに顔を見合わせて、(恐怖により)震え上がった。
 クシャトリヤたちは、敵の粉砕者の姿を目の当たりにして、彼を羅刹(ラークシャサ)と信じ込んで目を閉じた。
 
 忌まわしい姿をした彼は、ヤマ神そのものの如く、軍営の中を疾走して、ついにドラウパディーの息子たちとソーマカ族〔パンチャーラ族の支族〕の生き残りたちを発見した。
 騒音により警戒させられて、ドリシュタディユムナが殺害されたことに気付くと、強大なる戦士たちとドラウパディーの息子たちは、弓を携えて、恐れ気なくドローナの息子に矢を降り注がせた。
 騒音により目を醒まして、シカンディンを先頭にしたプラバドラカ族〔パンチャーラ族の支族〕は、矢によりドローナの息子を圧せんとした。
 ドローナの息子は、彼等が矢を降り注がせる様を見ると、雄叫びをあげて、強大なる戦士たちの殺戮を渇望した。
 父の死を思い起こして、アシュヴァッターマンは憤怒に満たされた。
 戦車の台座から飛び降りると、彼は猛烈に(敵に向かって)突撃した。
 千の月〔の印〕を有する輝ける盾と、黄金で飾られた重厚かつ崇高なる剣を掲げると、強大なるアシュヴァッターマンは、ドラウパディーの息子たちに向かって突撃して、武器で周囲を薙ぎ倒した。
 かの人中の虎は、忌まわしき戦いのなか、プラティヴィンディヤ〔ユディシュティラとドラウパディーの息子〕の腹を撃ち、後者〔プラティヴィンディヤ〕は生命を奪われて大地に倒れ伏したのだ。
 陛下!
 勇猛なるスタソーマ〔ビーマとドラウパディーの息子〕は、ドローナの息子を槍で貫くと、掲げた剣で突撃した。
 だがアシュヴァッターマンは、握った剣でスタソーマの腕を斬り落とし、重ねて横ざまに撃った。
 ここで、スタソーマは倒れ伏して生命を奪われた。
 ナクラ〔とドラウパディー〕の息子たる勇猛なるシャターニーカは、戦車の車輪を両の手で掲げると、荒々しくアシュヴァッターマンの胸を撃った。
 戦車の車輪を投擲されたのち、立ち直ったアシュヴァッターマンは、シャターニーカを猛烈に攻撃した。
 極度に動揺して、ナクラの息子は大地に倒れ伏した。
 ここで、ドローナの息子は彼の首を斬り落とした。
 シュルタカルマン〔サハデーヴァとドラウパディーの息子/アルジュナとドラウパディーの息子も同名〕は、棘を打った棍棒を掲げて、アシュヴァッターマンを攻撃した。
 荒れ狂ってドローナの息子に突撃すると、額の左の側を猛烈に攻撃した。
 アシュヴァッターマンは、優れた剣でシュルタカルマンの顔を撃った。
 彼は五感を奪われ、顔貌を損われ、生命なくして大地に倒れ伏した。
 騒音により、強大なる戦士たる英雄的なシュルタキールティ〔アルジュナとドラウパディーの息子〕は目を醒まして、アシュヴァッターマンに矢の雨を降り注がせた。
 矢の雨を盾で防ぐと、アシュヴァッターマンは、敵の胴から後者〔シュルタキールティ〕の耳輪に飾られた美しい首を斬り落とした。
 ビーシュマの殺害者たる強大なるシカンディンは、全てのプラバドラカ族と共に、あらゆる方向から、あらゆる種類の武器で、かの英雄を攻撃した。
 シカンディンは、アシュヴァッターマンの両眉の中心〔眉間〕を矢で射た。
 これにより憤怒に満たされて、強大なる力を有するドローナの息子は、シカンディンに接近して、剣で真っ二つに切断した。
 シカンディンを殺害すると、憤怒に満たされたアシュヴァッターマンは、他のプラバドラカ族に向かって猛烈に突撃した。
 彼はまた、ヴィラータ王の軍の生き残りたちに向かって突き進んだ。
 
 強大なる力を身に帯びたドローナの息子は、ドルパダの息子・男孫・配下たちの間に、次から次へ白羽の矢を立てながら、大虐殺をもたらした。
 剣の扱いに熟達したアシュヴァッターマンは、他の戦兵たちに向かい突撃しては、優れた剣で斬り伏せた。
 パーンダヴァの軍営の戦士たちは、
死の夜(カーリー)〔いわゆるカーリー女神というより闇夜そのものか?〕
 が受肉した姿を見た。
 その黒き姿は、血に染まる口と血に染まる目をして、深紅の花環を掛け真紅に身体を塗り、紅の一枚布の衣を纏い、輪縄を手にして、老女のようで、しきりに陰鬱な声で唱えながら皆の者の目の前に立つと、頑丈な縄で縛られた全ての人間と軍馬と軍象を牽いて去ろうとした。
 彼女は、髪を振り乱して、縄で縛り合わせ、数多の強大なる戦士たちが武器を奪われるなか、あらゆる種類の霊魂を連れ去るように見えた。
 陛下!
 他日、パーンダヴァの軍営の最上の戦士たちは、かの影が眠れる戦兵たちを牽き去り、ドローナの息子がその背から襲い撃つさまを夢に見たものだ。
 陛下!
 パーンダヴァの兵士たちは、クルとパーンダヴァの間の戦争が初めて開始した日から毎夜、かの女性とドローナの息子を夢に見たのだ。
 彼らは運命の前に打ちのめされ、轟かす忌まわしき雄叫びで皆を脅かすドローナの息子に襲撃された。
 運命に打ちのめされ、パーンダヴァの軍営の勇敢なる戦士たちは、夢に見た光景を想い起こし、いま目撃しているものと等しいと認めた。
 
 騒音が巻き起こったとき、軍営にいる幾百幾千のパーンダヴァの弓兵たちは、眠りから醒めた。
 アシュヴァッターマンはある者の脚を斬り落とし、ある者の尻を、ある者の脇腹を貫いて、(カーラ)により解き放たれた(アンタカ)そのものの如く疾走した。
 陛下!
 大地はたちまち、原形をとどめないほどに粉砕された人間たち・または軍象と軍馬に踏み潰された・甚大な苦痛に喚き声をあげる者たちで覆われた。
 数多の者たちは大声で叫んだ。
「これは何だ?」
「これは誰だ?」
「この騒音は何だ?」
「誰が何をしたのだ?」
 斯様な悲鳴が上がるなか、ドローナの息子はその破壊者(アンタカ)となった。
 最上の強襲者たるドローナの息子は、甲冑も武器も持たないパーンダヴァとスリンジャヤの全ての者たちを、ヤマの領地〔冥界〕へ送り出した。
 騒音に脅えて、数多の者は眠りから醒めた。
 恐怖に取り憑かれ、睡魔のため目が開かず、五感を奪われ、かの戦士たちは(アシュヴァッターマンの激情の前に)消え失せそうに見えた。
 その太腿は麻痺して、数多の者たちは呆然として気力の全てを失った。
 悲鳴をあげながら恐怖に取り憑かれ、彼らはお互いに殺し合いはじめた。
 ドローナの息子は忌まわしく騒々しい戦車に再度乗り込み、弓を執って、その矢で数多の者をヤマの御許〔冥界〕へ送り出した。
 眠りから醒めた他の者たち・勇敢なる戦士たち・最上者たちは、アシュヴァッターマンに向かって来ては、彼に接近する前に殺害されて、死の夜(カーララートリー)へ捧げられる生贄となった。
 数多の者を最上の戦車で粉砕しながら、彼は軍営を突き進んで、降り重なる矢の雨で敵を覆った。
 再び百の月〔の印〕で装飾された美しい盾を掲げ、天空の色を有する剣を掲げ、敵の真っ只中に突き進んだ。
 大湖を撹拌する象の如く、戦場で抗い難きドローナの息子は、パーンダヴァの軍営を撹拌した。
 
 陛下!
 騒音により目を醒まして、まだ睡魔と恐怖に苛まれながら五感が霧中にある数多の戦士たちは、右往左往に逃げ惑った。
 ある者たちは耳障りな悲鳴をあげて、ある者たちは支離滅裂な絶叫をあげた。
 ある者たちは己の武器も甲冑も得ること適わなかった。
 ある者たちは髪が乱れて、お互いに相手を見分けることができなかった。
 眠りから醒まされながら、ある者たちは疲れ果てて倒れ伏して、ある者たちは彼方此方を当て所もなく彷徨った。
 軍象と軍馬は手綱を千切り、糞尿を垂れ流した。
 大混乱により、数多の者がお互いに押し寄せた。
 このような最中、ある者たちは恐怖により自ら大地に伏した。
 軍営の動物たちは、このような者たちを踏み躙った。
 
 軍営がこのような有様であったとき、陛下!
 ラークシャサ族が歓喜の雄叫びを轟かせたのだ。
 バーラタ族の王よ!
 歓喜した悪霊たちから、騒々しい叫び声があがり、四方と天空を満たしたのだ。
 陛下!
 悲痛な慟哭の声を聞くと、軍象と軍馬は手綱を千切り、彼方此方に殺到して、軍営の戦兵たちを踏み躙った。
 動物たちが彼方此方に殺到すると、埃が舞い上げられ、夜を二重に暗くした。
 その分厚い闇が降りてくると、軍営の戦士たちはすっかり呆然として、父親は息子を見分けることができず、兄弟は兄弟を見分けることができなかった。
 軍象は乗り手なき軍象に襲い掛かり、軍馬は乗り手なき軍馬に襲い掛かり、行く手に立ちはだかる人間に襲い掛かり・打ち砕いて・踏み躙った。
 完全に統制を失って、戦兵たちは突進すると、お互いに殺し合い、行く手に立ちはだかる者を薙ぎ倒し、八つ裂きにした。
 五感を奪われ、睡魔に襲われ、暗黒に包まれ、宿命に駆り立てられた者たちは、己の同志を殺害した。
 守衛たちは見張っていた門を離れ、部隊の責任を負う者たちは守護していた持ち場を離れ、己の生命のために逃亡して、五感を奪われ、己が何処に突き進んでいるか知らなかった。
 陛下!
 お互いに殺し合いながら、殺戮者たちは、殺害された相手を認識していなかった。
 宿命の星に導かれて、己の父親や息子を追い撃った。
 友人や親族を捨て置いて逃げ惑いながら、家名や人名を挙げてお互いに呼び掛けた。
 他の者は、
「おお!」
「ああ!」
 という叫び声をあげて、大地に倒れ伏した。
 その戦渦の最中、ドローナの息子は、その者たちを認めると、全て殺した。
 
 他のクシャトリヤの者たちは、虐殺されながら、五感を喪失して、恐怖に苛まれて、軍営から遁走せんと足掻いた。
 己の生命を守るために軍営から遁走せんと足掻いた者たちは、門において、クリタヴァルマンとクリパに殺害された。
 武器も道具も甲冑も奪われ、髪を振り乱して、その者たちは合掌した。
 恐怖に慄きながら、その者たちは大地にひれ伏した。
 だが、(戦車に騎乗した)二人のクルの戦士〔クリパとクリタヴァルマン〕は、一片の容赦も与えなかった。
 軍営から脱出した者たちの中に、邪悪なる二人の人物、クリパとクリタヴァルマンに見逃された者はいなかった。
 そしてまた、ドローナの息子にとって甚だ善きことをせんとして、この二人はパーンダヴァの軍営に三方から火を放った。
 
 軍営が()に照らされた時、父〔ドローナ〕の歓びたるアシュヴァッターマンは、疾駆して、剣を執り優れた技で敵を撃ち倒した。
 陛下!
 勇敢なる敵兵のうち、幾名かは彼に向かって突き進み、幾名かは右往左往に逃げ惑った。
 再生族(ドヴィジャ)〔宗教的に再生しうる特権的な身分である婆羅門(ブラーフマナ)・クシャトリヤ・ヴァイシヤのこと〕の最上者は、剣をもって彼の者たち全ての命を奪った。
 勇猛なるドローナの息子は、憤怒に満たされて、幾名かの戦士たちを、胡麻の茎をそうする如く、剣をもって真っ二つに斬り伏せた。
 バーラタ族の雄牛〔ドリタラーシュトラ〕よ!
 大地には、入り混じって倒れ伏す最上者たち・軍馬・軍象の肉体が散乱して、悲痛な慟哭の声が上がっていた。
 幾千の者たちが生命を奪われて倒れ伏す一方で、無数の首のない胴体が起き上がろうとしては倒れ伏していた〔「佇立した姿勢から崩れ落ちていた」?〕
 バーラタ族の者よ!
 武器を握り腕輪(アンガダ)に飾られた腕を、首を、象の鼻の如き太腿を、手を、足を、アシュヴァッターマンは斬り落とした。
 名高きドローナの息子は、ある者の背中を斬り刻み、ある者の首を斬り落とし、ある者を戦場から逃亡せしめた。
 彼はある者〔の身体〕を真ん中で切断し、ある者の耳を斬り落とし、ある者の肩を撃ちのめし、ある者の頭を胴体に叩き込んだ。
 
 このようにアシュヴァッターマンが突き進み、幾千の者たちを殺戮するにつれ、深夜は闇に包まれた末に、いっそう忌まわしいものとなった。
 大地は、幾千の死んだ人間・死に瀕した人間・無数の軍馬や軍象が撒き散らされ、見るも忌まわしくなった。
 憤怒したドローナの息子に斬り倒され、敵兵たちは大地に倒れ伏した。
 そこ〔大地〕夜叉(ヤクシャ)羅刹(ラークシャサ)で満ち溢れ、(破壊された)戦車や殺戮された軍馬と軍象でおぞましい様相となった。
 ある者は兄弟を呼び、ある者は父親を呼び、ある者は息子を呼んだ。
 そしてある者は言った――
「ドリタラーシュトラの怒れる息子たち〔百王子〕も、邪悪なる行為の羅刹(ラークシャサ)が就寝時間中に(我々に)成した、このような戦功を遂げることはできなかった!
 この大虐殺が行われたのは、ひとえにプリターの息子たち〔パーンダヴァ〕の不在の結果だ。
 ジャナールダナ〔クリシュナ〕を守護者とするクンティーの息子〔アルジュナ〕は、神々(デーヴァ)にも・アスラにも・ガンダルヴァにも・ヤクシャにも・ラークシャサにも、撃ち破られることはない。
 梵天(ブラフマー)に敬虔にして、言動は真実、自制心があり、あらゆる生物に情け深き、ダナンジャヤと呼ばれる、かのプリターの息子〔アルジュナ〕は、眠れる者・心神を喪失した者・武器を捨て置いた者・合掌して嘆願する者・逃れる者・髪を振り乱した者を、決して殺めることはない。
 ああ!
 このような忌まわしい行為を我々の身の上に犯すのは、邪悪なる羅刹(ラークシャサ)である!」
 このような声を上げて、数多の者は倒れ伏した。
 
 人間たちの叫びや呻きにより巻き起こった轟音は、寸時のうちに微かになった。
 陛下!
 大地は血にしとどに濡れ、忌まわしき濃密な土煙は忽然と消え失せた。
 苦痛に身悶え、不安と絶望に圧し潰された、幾千の者たちは、ルドラが生類を殺戮するように、アシュヴァッターマンに殺された。
 地面に倒れ伏してお互いを抱き締めた数多の者たち、飛び去らんとした数多の者たち、身を隠さんとした数多の者たち、戦いに身を投じた数多の者たちは、総てドローナの息子に殺された。
 猛り狂う業火に灼かれ、アシュヴァッターマンに虐殺されながら、その者たちは、五感を喪失して、お互いを殺し合った。
 夜半を過ぎる前に、かのドローナの息子は、パーンダヴァの軍勢をヤマの御許〔冥界〕へ送り出したのだ。
 陛下!
 
 人間と軍馬と軍象にとっては、殊に忌まわしく破壊的な其の夜は、暗闇を彷徨う全ての生命を歓喜で満たした。
 多種多様な数多の羅刹(ラークシャサ)やピシャーチャ〔悪鬼〕の姿がそこに在り、地面に溢れる人肉と鮮血を貪り呷っていた。
 彼奴らは、獰猛で・黄褐色で・忌まわしく・鋼の如き牙を有し・血に染まっていた。
 艶のない縺れた髪を頭に戴き、その太腿は長大で逞しかった。
 五本の足を有し、胃は巨大だった。
 五指は逆しまに捻れていた。
 気は荒く・顔は醜く・轟く声は忌まわしいものだった。
 鳴り響く連なる鈴を、その身に下げていた。
 青い喉をした姿は殊に悍ましいものだった。
 きわめて残虐にして、恐怖なしに見ることの適わない、どんな物であれ忌まわしいと思うことのない者たちは、妻子を伴ってやって来た。
 実に、やって来た羅刹(ラークシャサ)たちの、そこに見える姿は、多種多様なものだった。
 河となり流れる血を呷ると、彼奴らは歓喜に満たされて、群れに分かれて踊りだした。
「最高だ!」
「新鮮だ!」
「甘美だ!」
 ――これらが、彼奴らの口にした言葉である。
 
 また、獣の餌を糧とする肉食獣たちは、脂肪を・脊髄を・骨と血を貪り、亡骸の美味なる部位を喰らい始めた。
 河となり流れる脂を飲み、裸で野を駆ける者たち悪霊(ククシラ)もいた。
 多様な面構えをして、屍肉を生の糧とする、獰猛なる肉食の生類も、無量無数にやって来た。
 邪悪な行為をする、凶悪にして巨大な羅刹(ラークシャサ)たちもまた、同じほどの無数の群れをなしてやって来た。
 そしてまた、悪霊(ブータ)たちも、歓喜に満たされて、腹をはち切れんばかりにして、その忌まわしき虐殺の最中に姿を見せたのだ。
 陛下!
 
 夜が明けた頃、アシュヴァッターマンは軍営を離脱せんとした。
 彼は人血を浴び、剣の柄はあまりに(しっか)と掌に貼り付き、彼の手と剣は一つになっていた。
 陛下!
 (正義なる戦士たちにとっては)未踏の途を歩んで、アシュヴァッターマンは、大虐殺のすえ、全ての生類を灰塵へと焼き尽くした後の、ユガの終焉に燃え盛る業火の如く見えた。
 己の誓約に従って、偉大なる罪を犯し、未踏の途を歩むことにより、ドローナの息子は、父を殺められた哀しみを忘れた。
 陛下!
 パーンダヴァの軍営は、その(うち)にある者たち全てを覆い尽くした睡りのために、其の夜、ドローナの息子が入り込むまで、完全な静寂のもとにあった。
 
 夜の虐殺の後、再度すべてが静寂となると、アシュヴァッターマンはその場を出た。
 軍営を出て、勇猛なるアシュヴァッターマンは、二人の仲間〔クリパとクリタヴァルマン〕と会い、歓喜に満たされて、己の偉業を語り、その報せにて彼らを喜ばせた。
 陛下!
 二人はこれに返答して、良かれという思いから身を尽くして、如何に自分たちもまた幾千のパンチャーラやスリンジャヤ〔パンチャーラ族の支族〕の者たちを(門において)殺戮したかについて、好ましい報せを伝えた。
 正に斯くして、其の夜こそは、不覚となり睡りの裡に覆われていたソーマカ〔パンチャーラ族の支族〕の忌まわしい破滅を示したのだ。
 時の流れ〔運命〕は、間違いなく、抗い難いものである。
 我々〔カウラヴァ軍〕を殲滅した者たち〔パーンダヴァ軍〕自身が、今や殲滅されたのだ。
 
 ドリタラーシュトラは言った。
「何故、かの強大なる戦士(マハーラタ)たるドローナの息子は、ドゥルヨーダナのもとに勝利をもたらさんと、断固として奮迅していたにもかかわらず、以前にこのような偉業を成し遂げなかったのか?
 どのような理由で、かの偉大なる射手は、憐れなドゥルヨーダナが斃された後になって、これを成し遂げたのか?
 そなたは、それを余に語るべきである」
 
 サンジャヤは言った。
「プリターの息子たち〔パーンダヴァ〕に対する畏れのために、アシュヴァッターマンは当時このような偉業を成し遂げることができなかったのです。
 クル族の子よ!
 ドローナの息子がこのことを成し遂げることができた所以は、プリターの息子たち〔パーンダヴァ〕と・賢明なるケーシャヴァ〔クリシュナ〕と・サーティヤキの不在の成せる業です。
 かの英雄たちの面前で虐殺をすることができるなど、一体そんな何者が存在するものか、インドラ神(マルットパティ)〔マルット神族の王〕でさえ計り知れますまい〔存在するわけがない〕
 陛下!
 それに、アシュヴァッターマンがこの偉業を成し遂げることに成功した理由は、単に人々がみな眠っていたからです。
 〔さて、〕パーンダヴァ軍に対する甚大な虐殺を引き起こした、かの三人の強大なる戦士(マハーラタ)(アシュヴァッターマン・クリパ・クリタヴァルマン)は、一堂に会すると、高らかに叫びました――
『幸運〔ディシュティ〕なるかな!』
 二人の仲間はアシュヴァッターマンを祝福のうえ、後者は重ねて抱擁を受けました。
 歓喜に包まれながら、後者はこう言ったのです――
『全パンチャーラ族は殺戮された、ドラウパディーの息子たち全員もだ!
 全ソーマカ族も、マツヤ族の生き残りも全員、同様に私に殺されたのだ!
 成果を戴いて、我々は遅滞なく陛下〔ドゥルヨーダナ〕の居るところへ行こう。
 もし陛下がまだ生きていたら、この喜ばしい報せを伝えよう!』」
 

 ドリタラーシュトラは言った。
「かの強大なる戦士(マハーラタ)たるドローナの息子が、斯様にして敵陣の軍営に進み行ったとき、クリパとボージャ族の者〔クリタヴァルマン〕は、恐れから停まったのか?
 かの両の戦士が、卑しき守衛に見咎められ、敵が抗いがたいことを考え、隠れて逃げ去ったのでなければと思うが。
 あるいは、ソーマカ〔パンチャーラ族の支族の者たち〕とパーンダヴァを、その軍営を粉砕したのち、ドゥルヨーダナが戦いの最中に辿った、いと高き輝かしき道〔戦死〕に続いたのか?
 かの英雄たちは、パンチャーラ族の者たちに殺められ、地べたに寝ているのか?
 彼らは何らかの功業を成し遂げたのか?
 全て語ってくれ、サンジャヤよ!」
 
 サンジャヤは言った。
「高潔なるドローナの息子が軍営に進み行ったとき、クリパとクリタヴァルマンは門に停まりました。
 彼らに尽力する用意ができている様子を見ると、アシュヴァッターマンは喜色に満たされて、囁き声でこう言ったのです。
 陛下!――
『貴方がた二人が尽力すれば、クシャトリヤの全てを殲滅できる力がある!
 (パーンダヴァ)軍の生き残り、まして眠りに落ちているとあっては、言うまでもないことだ。
 私は軍営に入り、ヤマ〔冥王〕の如く突き進もう。
 一人として命を持って逃げ遂せる者のないよう、貴方がた二人は間違いなく振る舞ってくれるだろう。』」

 
 そう言うと、ドローナの息子はプリターの息子たち〔パーンダヴァ〕の広大なる軍営に入っていった。
 全ての恐れを棄て去り、彼は扉なき場所から侵入した。
 強力なる英雄は、軍営に入り込むと、(しるし)に導かれて、静謐に、ドリシュタディユムナの居る軍舎に向かった。
 パンチャーラ族の者たちは、偉大なる功業を成し遂げて、戦いに疲れ果てていた。
 彼らは安心の内に、寄り集まって、隣り合って眠っていた。
 バーラタ族の者〔ドリタラーシュトラ〕よ!
 ドリシュタディユムナの部屋に入ると、ドローナの息子は、パンチャーラの王子が目前で寝台の上に眠っている様を見た。
 上質な最高の寝台で、美しい絹の敷布に、彼は横たわっていた。
 素晴らしい花飾が、寝台に撒き散らされ、香料(ドゥーパ)の粉末が香り立っていた。
 陛下!
 アシュヴァッターマンは、安心して恐れを忘れ寝台で眠っている高潔なる王子を、蹴り飛ばして起こした。
 戦場で抗い難く計り知れない魂を持つ、その王子は、足蹴にされた衝撃で、睡りから醒め、ドローナの息子が目前に立っていることを覚った。
 彼が寝台から起き上がろうとしている内に、強力なるアシュヴァッターマンは、彼の髪を鷲掴みにして、腕ずくで地面に押さえ付けた。
 このように、アシュヴァッターマンにより凄まじい力で押さえ付けられて、王子は、恐怖と睡魔のため、その瞬間、力を奮うことができなかった。
 陛下!
 獲物が苦悶して悲鳴を上げている中で、その喉と胸を足蹴にしながら、ドローナの息子は、獣〔を屠殺する〕かのように彼を殺そうとした。
 パンチャーラの王子は、爪でアシュヴァッターマンを掻き毟りながら、ついに掠れ声で言った。
「我が師の息子よ、私を武器で殺してくれ、長引かせずに!
 最上者よ、汝の手で、私を高潔なる世界〔天界〕に往かしめてくれ!」
 
 そうとだけ言い終えると、パンチャーラ王〔ドルパダ〕の息子たる敵の殺戮者は、強大なる英雄の力に攻め立てられ、沈黙した。
 その掠れた言葉を聞いて、ドローナの息子は言った。
「貴様の一族の面汚しめ。
 師殺しのための世界〔天界〕などない。
 故に、愚か者よ、貴様は如何なる武器に殺される値打ちもないわ!」
 そう言いながら、アシュヴァッターマンは、憤怒に満たされて、獲物の急所を踵で暴力的に蹴りはじめ、いきりたった象を獅子が殺すように、敵を殺した。
 殺されんとしながら、かの英雄が上げる悲鳴で、天幕中にいる彼の妻たちと守衛たちは、みな目を醒ました。
 陛下!
 何者かが王子を超人的な力で捻り潰す様を見て、皆は襲撃者を何らかの超常的な存在と見て取り、恐怖のあまり叫び声も出なかった。
 このような手口で、彼をヤマの御許〔冥界〕へ送り出すと、強大なる力持つアシュヴァッターマンは、外に出て美麗なる戦車に乗り込み、そこに座した。
 陛下!
 いざ、ドリシュタディユムナの住居から出て来るや、アシュヴァッターマンは四方八方に雄叫びを轟かせて、敵を殺戮するために軍営の他の場所へ戦車を進めた。
 
 かの強大なる戦士たるドローナの息子が立ち去ると、婦人たちと守衛たちは悲哀から慟哭の声を轟かせた。
 己が君が殺害されたことを知って、ドリシュタディユムナの全ての妻は、大いなる悲嘆に満たされて泣き叫んだ。
 その慟哭により、数多の強大なるクシャトリヤたちは目を醒まし、鎧を纏うと、泣き声の理由を求めて、その場を訪れた。
 婦人たちは、アシュヴァッターマンの姿に恐れ慄いて、彼を即座に追跡するよう、痛ましい様子で男たちに頼んだ。
 女たちは言った。
「いずれ羅刹(ラークシャサ)か人間か、私どもは彼が何者であったか存じませぬ!
 パンチャーラの王を殺害してしまうと、彼はそちら〔プーナ校訂版によると戦車の車上〕に居りました!」
 その言葉により、最上の戦士たちはドローナの息子をたちまち包囲した。
 後者は、ルドラーストラ〔神秘的武器〕を使用して、戦士たちを皆殺しにした。
 ドリシュタディユムナと全ての彼の配下を殺害すると、彼はウッタマウジャス*3が寝台で眠っている様を凝視した。
 その喉と胸を足蹴にしながら、ドローナの息子はその強大なる英雄を、後者〔ウッタマウジャス〕が苦痛に身悶えするうちに、殺害した。
 ユダーマニユ*4は、その場を訪れると、同胞が羅刹(ラークシャサ)に殺害されたと信じ込んで、ドローナの息子の胸を棍棒で鋭く撃った。
 アシュヴァッターマンは、相手に向かって突進すると、彼を掴み捕えて地面に引き落とし、後者〔ユダーマニユ〕が甲高い悲鳴をあげるうちに、獣〔を屠殺する〕かのように殺害した。
 
 斯様にしてユダーマニユを殺害すると、かの英雄は、こぞって眠っている他の王の戦士に向かって突き進んだ。
 身を震わせて甲高い悲鳴をあげる戦士たちを、犠牲式における獣にするように、彼は皆殺しにした。
 それから剣を執って、彼は他の数多の者を殺害した。
 軍営のあらゆる道に沿って、次から次へ突き進むと、剣の扱いに熟達したアシュヴァッターマンは、あらゆる軍舎(グルマ)を凝視して、その中に眠る非武装の疲れ果てた戦士たちを殺害した。
 その優れた剣で、彼は戦兵と軍馬と軍象を斬り伏せた。
 全身血に塗れて、彼はむしろ(カーラ)により送り込まれた(アンタカ)そのものに見えた。
 度重ねて奮われる三種類の剣〔の技法?〕により、敵兵を震え上がらせ、アシュヴァッターマンは血を浴びた。
 血に塗れながら、燃えるような剣を奮うにつれ、彼の姿は、戦場を疾走するほどに、極めて忌まわしく超人的になっていった。
 カウラヴァ族の者〔ドリタラーシュトラ〕よ!
 眠りから醒めた者たちは、(周囲に響く)轟く騒音に呆然とした。
 ドローナの息子を目の当たりにすると、お互いに顔を見合わせて、(恐怖により)震え上がった。
 クシャトリヤたちは、敵の粉砕者の姿を目の当たりにして、彼を羅刹(ラークシャサ)と信じ込んで目を閉じた。
 
 忌まわしい姿をした彼は、ヤマ神そのものの如く、軍営の中を疾走して、ついにドラウパディーの息子たちとソーマカ族〔パンチャーラ族の支族〕の生き残りたちを発見した。
 騒音により警戒させられて、ドリシュタディユムナが殺害されたことに気付くと、強大なる戦士たちとドラウパディーの息子たちは、弓を携えて、恐れ気なくドローナの息子に矢を降り注がせた。
 騒音により目を醒まして、シカンディンを先頭にしたプラバドラカ族〔パンチャーラ族の支族〕は、矢によりドローナの息子を圧せんとした。
 ドローナの息子は、彼等が矢を降り注がせる様を見ると、雄叫びをあげて、強大なる戦士たちの殺戮を渇望した。
 父の死を思い起こして、アシュヴァッターマンは憤怒に満たされた。
 戦車の台座から飛び降りると、彼は猛烈に(敵に向かって)突撃した。
 千の月〔の印〕を有する輝ける盾と、黄金で飾られた重厚かつ崇高なる剣を掲げると、強大なるアシュヴァッターマンは、ドラウパディーの息子たちに向かって突撃して、武器で周囲を薙ぎ倒した。
 かの人中の虎は、忌まわしき戦いのなか、プラティヴィンディヤ〔ユディシュティラとドラウパディーの息子〕の腹を撃ち、後者〔プラティヴィンディヤ〕は生命を奪われて大地に倒れ伏したのだ。
 陛下!
 勇猛なるスタソーマ〔ビーマとドラウパディーの息子〕は、ドローナの息子を槍で貫くと、掲げた剣で突撃した。
 だがアシュヴァッターマンは、握った剣でスタソーマの腕を斬り落とし、重ねて横ざまに撃った。
 ここで、スタソーマは倒れ伏して生命を奪われた。
 ナクラ〔とドラウパディー〕の息子たる勇猛なるシャターニーカは、戦車の車輪を両の手で掲げると、荒々しくアシュヴァッターマンの胸を撃った。
 戦車の車輪を投擲されたのち、立ち直ったアシュヴァッターマンは、シャターニーカを猛烈に攻撃した。
 極度に動揺して、ナクラの息子は大地に倒れ伏した。
 ここで、ドローナの息子は彼の首を斬り落とした。
 シュルタカルマン〔サハデーヴァとドラウパディーの息子/アルジュナとドラウパディーの息子も同名〕は、棘を打った棍棒を掲げて、アシュヴァッターマンを攻撃した。
 荒れ狂ってドローナの息子に突撃すると、額の左の側を猛烈に攻撃した。
 アシュヴァッターマンは、優れた剣でシュルタカルマンの顔を撃った。
 彼は五感を奪われ、顔貌を損われ、生命なくして大地に倒れ伏した。
 騒音により、強大なる戦士たる英雄的なシュルタキールティ〔アルジュナとドラウパディーの息子〕は目を醒まして、アシュヴァッターマンに矢の雨を降り注がせた。
 矢の雨を盾で防ぐと、アシュヴァッターマンは、敵の胴から後者〔シュルタキールティ〕の耳輪に飾られた美しい首を斬り落とした。
 ビーシュマの殺害者たる強大なるシカンディンは、全てのプラバドラカ族と共に、あらゆる方向から、あらゆる種類の武器で、かの英雄を攻撃した。
 シカンディンは、アシュヴァッターマンの両眉の中心〔眉間〕を矢で射た。
 これにより憤怒に満たされて、強大なる力を有するドローナの息子は、シカンディンに接近して、剣で真っ二つに切断した。
 シカンディンを殺害すると、憤怒に満たされたアシュヴァッターマンは、他のプラバドラカ族に向かって猛烈に突撃した。
 彼はまた、ヴィラータ王の軍の生き残りたちに向かって突き進んだ。
 
 強大なる力を身に帯びたドローナの息子は、ドルパダの息子・男孫・配下たちの間に、次から次へ白羽の矢を立てながら、大虐殺をもたらした。
 剣の扱いに熟達したアシュヴァッターマンは、他の戦兵たちに向かい突撃しては、優れた剣で斬り伏せた。
 パーンダヴァの軍営の戦士たちは、
死の夜(カーリー)〔いわゆるカーリー女神というより闇夜そのものか?〕
 が受肉した姿を見た。
 その黒き姿は、血に染まる口と血に染まる目をして、深紅の花環を掛け真紅に身体を塗り、紅の一枚布の衣を纏い、輪縄を手にして、老女のようで、しきりに陰鬱な声で唱えながら皆の者の目の前に立つと、頑丈な縄で縛られた全ての人間と軍馬と軍象を牽いて去ろうとした。
 彼女は、髪を振り乱して、縄で縛り合わせ、数多の強大なる戦士たちが武器を奪われるなか、あらゆる種類の霊魂を連れ去るように見えた。
 陛下!
 他日、パーンダヴァの軍営の最上の戦士たちは、かの影が眠れる戦兵たちを牽き去り、ドローナの息子がその背から襲い撃つさまを夢に見たものだ。
 陛下!
 パーンダヴァの兵士たちは、クルとパーンダヴァの間の戦争が初めて開始した日から毎夜、かの女性とドローナの息子を夢に見たのだ。
 彼らは運命の前に打ちのめされ、轟かす忌まわしき雄叫びで皆を脅かすドローナの息子に襲撃された。
 運命に打ちのめされ、パーンダヴァの軍営の勇敢なる戦士たちは、夢に見た光景を想い起こし、いま目撃しているものと等しいと認めた。
 
 騒音が巻き起こったとき、軍営にいる幾百幾千のパーンダヴァの弓兵たちは、眠りから醒めた。
 アシュヴァッターマンはある者の脚を斬り落とし、ある者の尻を、ある者の脇腹を貫いて、(カーラ)により解き放たれた(アンタカ)そのものの如く疾走した。
 陛下!
 大地はたちまち、原形をとどめないほどに粉砕された人間たち・または軍象と軍馬に踏み潰された・甚大な苦痛に喚き声をあげる者たちで覆われた。
 数多の者たちは大声で叫んだ。
「これは何だ?」
「これは誰だ?」
「この騒音は何だ?」
「誰が何をしたのだ?」
 斯様な悲鳴が上がるなか、ドローナの息子はその破壊者(アンタカ)となった。
 最上の強襲者たるドローナの息子は、甲冑も武器も持たないパーンダヴァとスリンジャヤの全ての者たちを、ヤマの領地〔冥界〕へ送り出した。
 騒音に脅えて、数多の者は眠りから醒めた。
 恐怖に取り憑かれ、睡魔のため目が開かず、五感を奪われ、かの戦士たちは(アシュヴァッターマンの激情の前に)消え失せそうに見えた。
 その太腿は麻痺して、数多の者たちは呆然として気力の全てを失った。
 悲鳴をあげながら恐怖に取り憑かれ、彼らはお互いに殺し合いはじめた。
 ドローナの息子は忌まわしく騒々しい戦車に再度乗り込み、弓を執って、その矢で数多の者をヤマの御許〔冥界〕へ送り出した。
 眠りから醒めた他の者たち・勇敢なる戦士たち・最上者たちは、アシュヴァッターマンに向かって来ては、彼に接近する前に殺害されて、死の夜(カーララートリー)へ捧げられる生贄となった。
 数多の者を最上の戦車で粉砕しながら、彼は軍営を突き進んで、降り重なる矢の雨で敵を覆った。
 再び百の月〔の印〕で装飾された美しい盾を掲げ、天空の色を有する剣を掲げ、敵の真っ只中に突き進んだ。
 大湖を撹拌する象の如く、戦場で抗い難きドローナの息子は、パーンダヴァの軍営を撹拌した。
 
 陛下!
 騒音により目を醒まして、まだ睡魔と恐怖に苛まれながら五感が霧中にある数多の戦士たちは、右往左往に逃げ惑った。
 ある者たちは耳障りな悲鳴をあげて、ある者たちは支離滅裂な絶叫をあげた。
 ある者たちは己の武器も甲冑も得ること適わなかった。
 ある者たちは髪が乱れて、お互いに相手を見分けることができなかった。
 眠りから醒まされながら、ある者たちは疲れ果てて倒れ伏して、ある者たちは彼方此方を当て所もなく彷徨った。
 軍象と軍馬は手綱を千切り、糞尿を垂れ流した。
 大混乱により、数多の者がお互いに押し寄せた。
 このような最中、ある者たちは恐怖により自ら大地に伏した。
 軍営の動物たちは、このような者たちを踏み躙った。
 
 軍営がこのような有様であったとき、陛下!
 ラークシャサ族が歓喜の雄叫びを轟かせたのだ。
 バーラタ族の王よ!
 歓喜した悪霊たちから、騒々しい叫び声があがり、四方と天空を満たしたのだ。
 陛下!
 悲痛な慟哭の声を聞くと、軍象と軍馬は手綱を千切り、彼方此方に殺到して、軍営の戦兵たちを踏み躙った。
 動物たちが彼方此方に殺到すると、埃が舞い上げられ、夜を二重に暗くした。
 その分厚い闇が降りてくると、軍営の戦士たちはすっかり呆然として、父親は息子を見分けることができず、兄弟は兄弟を見分けることができなかった。
 軍象は乗り手なき軍象に襲い掛かり、軍馬は乗り手なき軍馬に襲い掛かり、行く手に立ちはだかる人間に襲い掛かり・打ち砕いて・踏み躙った。
 完全に統制を失って、戦兵たちは突進すると、お互いに殺し合い、行く手に立ちはだかる者を薙ぎ倒し、八つ裂きにした。
 五感を奪われ、睡魔に襲われ、暗黒に包まれ、宿命に駆り立てられた者たちは、己の同志を殺害した。
 守衛たちは見張っていた門を離れ、部隊の責任を負う者たちは守護していた持ち場を離れ、己の生命のために逃亡して、五感を奪われ、己が何処に突き進んでいるか知らなかった。
 陛下!
 お互いに殺し合いながら、殺戮者たちは、殺害された相手を認識していなかった。
 宿命の星に導かれて、己の父親や息子を追い撃った。
 友人や親族を捨て置いて逃げ惑いながら、家名や人名を挙げてお互いに呼び掛けた。
 他の者は、
「おお!」
「ああ!」
 という叫び声をあげて、大地に倒れ伏した。
 その戦渦の最中、ドローナの息子は、その者たちを認めると、全て殺した。
 
 他のクシャトリヤの者たちは、虐殺されながら、五感を喪失して、恐怖に苛まれて、軍営から遁走せんと足掻いた。
 己の生命を守るために軍営から遁走せんと足掻いた者たちは、門において、クリタヴァルマンとクリパに殺害された。
 武器も道具も甲冑も奪われ、髪を振り乱して、その者たちは合掌した。
 恐怖に慄きながら、その者たちは大地にひれ伏した。
 だが、(戦車に騎乗した)二人のクルの戦士〔クリパとクリタヴァルマン〕は、一片の容赦も与えなかった。
 軍営から脱出した者たちの中に、邪悪なる二人の人物、クリパとクリタヴァルマンに見逃された者はいなかった。
 そしてまた、ドローナの息子にとって甚だ善きことをせんとして、この二人はパーンダヴァの軍営に三方から火を放った。
 
 軍営が()に照らされた時、父〔ドローナ〕の歓びたるアシュヴァッターマンは、疾駆して、剣を執り優れた技で敵を撃ち倒した。
 陛下!
 勇敢なる敵兵のうち、幾名かは彼に向かって突き進み、幾名かは右往左往に逃げ惑った。
 再生族(ドヴィジャ)〔宗教的に再生しうる特権的な身分である婆羅門(ブラーフマナ)・クシャトリヤ・ヴァイシヤのこと〕の最上者は、剣をもって彼の者たち全ての命を奪った。
 勇猛なるドローナの息子は、憤怒に満たされて、幾名かの戦士たちを、胡麻の茎をそうする如く、剣をもって真っ二つに斬り伏せた。
 バーラタ族の雄牛〔ドリタラーシュトラ〕よ!
 大地には、入り混じって倒れ伏す最上者たち・軍馬・軍象の肉体が散乱して、悲痛な慟哭の声が上がっていた。
 幾千の者たちが生命を奪われて倒れ伏す一方で、無数の首のない胴体が起き上がろうとしては倒れ伏していた〔「佇立した姿勢から崩れ落ちていた」?〕
 バーラタ族の者よ!
 武器を握り腕輪(アンガダ)に飾られた腕を、首を、象の鼻の如き太腿を、手を、足を、アシュヴァッターマンは斬り落とした。
 名高きドローナの息子は、ある者の背中を斬り刻み、ある者の首を斬り落とし、ある者を戦場から逃亡せしめた。
 彼はある者〔の身体〕を真ん中で切断し、ある者の耳を斬り落とし、ある者の肩を撃ちのめし、ある者の頭を胴体に叩き込んだ。
 
 このようにアシュヴァッターマンが突き進み、幾千の者たちを殺戮するにつれ、深夜は闇に包まれた末に、いっそう忌まわしいものとなった。
 大地は、幾千の死んだ人間・死に瀕した人間・無数の軍馬や軍象が撒き散らされ、見るも忌まわしくなった。
 憤怒したドローナの息子に斬り倒され、敵兵たちは大地に倒れ伏した。
 そこ〔大地〕夜叉(ヤクシャ)羅刹(ラークシャサ)で満ち溢れ、(破壊された)戦車や殺戮された軍馬と軍象でおぞましい様相となった。
 ある者は兄弟を呼び、ある者は父親を呼び、ある者は息子を呼んだ。
 そしてある者は言った――
「ドリタラーシュトラの怒れる息子たち〔百王子〕も、邪悪なる行為の羅刹(ラークシャサ)が就寝時間中に(我々に)成した、このような戦功を遂げることはできなかった!
 この大虐殺が行われたのは、ひとえにプリターの息子たち〔パーンダヴァ〕の不在の結果だ。
 ジャナールダナ〔クリシュナ〕を守護者とするクンティーの息子〔アルジュナ〕は、神々(デーヴァ)にも・アスラにも・ガンダルヴァにも・ヤクシャにも・ラークシャサにも、撃ち破られることはない。
 梵天(ブラフマー)に敬虔にして、言動は真実、自制心があり、あらゆる生物に情け深き、ダナンジャヤと呼ばれる、かのプリターの息子〔アルジュナ〕は、眠れる者・心神を喪失した者・武器を捨て置いた者・合掌して嘆願する者・逃れる者・髪を振り乱した者を、決して殺めることはない。
 ああ!
 このような忌まわしい行為を我々の身の上に犯すのは、邪悪なる羅刹(ラークシャサ)である!」
 このような声を上げて、数多の者は倒れ伏した。
 
 人間たちの叫びや呻きにより巻き起こった轟音は、寸時のうちに微かになった。
 陛下!
 大地は血にしとどに濡れ、忌まわしき濃密な土煙は忽然と消え失せた。
 苦痛に身悶え、不安と絶望に圧し潰された、幾千の者たちは、ルドラが生類を殺戮するように、アシュヴァッターマンに殺された。
 地面に倒れ伏してお互いを抱き締めた数多の者たち、飛び去らんとした数多の者たち、身を隠さんとした数多の者たち、戦いに身を投じた数多の者たちは、総てドローナの息子に殺された。
 猛り狂う業火に灼かれ、アシュヴァッターマンに虐殺されながら、その者たちは、五感を喪失して、お互いを殺し合った。
 夜半を過ぎる前に、かのドローナの息子は、パーンダヴァの軍勢をヤマの御許〔冥界〕へ送り出したのだ。
 陛下!
 
 人間と軍馬と軍象にとっては、殊に忌まわしく破壊的な其の夜は、暗闇を彷徨う全ての生命を歓喜で満たした。
 多種多様な数多の羅刹(ラークシャサ)やピシャーチャ〔悪鬼〕の姿がそこに在り、地面に溢れる人肉と鮮血を貪り呷っていた。
 彼奴らは、獰猛で・黄褐色で・忌まわしく・鋼の如き牙を有し・血に染まっていた。
 艶のない縺れた髪を頭に戴き、その太腿は長大で逞しかった。
 五本の足を有し、胃は巨大だった。
 五指は逆しまに捻れていた。
 気は荒く・顔は醜く・轟く声は忌まわしいものだった。
 鳴り響く連なる鈴を、その身に下げていた。
 青い喉をした姿は殊に悍ましいものだった。
 きわめて残虐にして、恐怖なしに見ることの適わない、どんな物であれ忌まわしいと思うことのない者たちは、妻子を伴ってやって来た。
 実に、やって来た羅刹(ラークシャサ)たちの、そこに見える姿は、多種多様なものだった。
 河となり流れる血を呷ると、彼奴らは歓喜に満たされて、群れに分かれて踊りだした。
「最高だ!」
「新鮮だ!」
「甘美だ!」
 ――これらが、彼奴らの口にした言葉である。
 
 また、獣の餌を糧とする肉食獣たちは、脂肪を・脊髄を・骨と血を貪り、亡骸の美味なる部位を喰らい始めた。
 河となり流れる脂を飲み、裸で野を駆ける者たち悪霊(ククシラ)もいた。
 多様な面構えをして、屍肉を生の糧とする、獰猛なる肉食の生類も、無量無数にやって来た。
 邪悪な行為をする、凶悪にして巨大な羅刹(ラークシャサ)たちもまた、同じほどの無数の群れをなしてやって来た。
 そしてまた、悪霊(ブータ)たちも、歓喜に満たされて、腹をはち切れんばかりにして、その忌まわしき虐殺の最中に姿を見せたのだ。
 陛下!
 
 夜が明けた頃、アシュヴァッターマンは軍営を離脱せんとした。
 彼は人血を浴び、剣の柄はあまりに(しっか)と掌に貼り付き、彼の手と剣は一つになっていた。
 陛下!
 (正義なる戦士たちにとっては)未踏の途を歩んで、アシュヴァッターマンは、大虐殺のすえ、全ての生類を灰塵へと焼き尽くした後の、ユガの終焉に燃え盛る業火の如く見えた。
 己の誓約に従って、偉大なる罪を犯し、未踏の途を歩むことにより、ドローナの息子は、父を殺められた哀しみを忘れた。
 陛下!
 パーンダヴァの軍営は、その(うち)にある者たち全てを覆い尽くした睡りのために、其の夜、ドローナの息子が入り込むまで、完全な静寂のもとにあった。
 
 夜の虐殺の後、再度すべてが静寂となると、アシュヴァッターマンはその場を出た。
 軍営を出て、勇猛なるアシュヴァッターマンは、二人の仲間〔クリパとクリタヴァルマン〕と会い、歓喜に満たされて、己の偉業を語り、その報せにて彼らを喜ばせた。
 陛下!
 二人はこれに返答して、良かれという思いから身を尽くして、如何に自分たちもまた幾千のパンチャーラやスリンジャヤ〔パンチャーラ族の支族〕の者たちを(門において)殺戮したかについて、好ましい報せを伝えた。
 正に斯くして、其の夜こそは、不覚となり睡りの裡に覆われていたソーマカ〔パンチャーラ族の支族〕の忌まわしい破滅を示したのだ。
 時の流れ〔運命〕は、間違いなく、抗い難いものである。
 我々〔カウラヴァ軍〕を殲滅した者たち〔パーンダヴァ軍〕自身が、今や殲滅されたのだ。
 
 ドリタラーシュトラは言った。
「何故、かの強大なる戦士(マハーラタ)たるドローナの息子は、ドゥルヨーダナのもとに勝利をもたらさんと、断固として奮迅していたにもかかわらず、以前にこのような偉業を成し遂げなかったのか?
 どのような理由で、かの偉大なる射手は、憐れなドゥルヨーダナが斃された後になって、これを成し遂げたのか?
 そなたは、それを余に語るべきである」
 
 サンジャヤは言った。
「プリターの息子たち〔パーンダヴァ〕に対する畏れのために、アシュヴァッターマンは当時このような偉業を成し遂げることができなかったのです。
 クル族の子よ!
 ドローナの息子がこのことを成し遂げることができた所以は、プリターの息子たち〔パーンダヴァ〕と・賢明なるケーシャヴァ〔クリシュナ〕と・サーティヤキの不在の成せる業です。
 かの英雄たちの面前で虐殺をすることができるなど、一体そんな何者が存在するものか、インドラ神(マルットパティ)〔マルット神族の王〕でさえ計り知れますまい〔存在するわけがない〕
 陛下!
 それに、アシュヴァッターマンがこの偉業を成し遂げることに成功した理由は、単に人々がみな眠っていたからです。
 〔さて、〕パーンダヴァ軍に対する甚大な虐殺を引き起こした、かの三人の強大なる戦士(マハーラタ)(アシュヴァッターマン・クリパ・クリタヴァルマン)は、一堂に会すると、高らかに叫びました――
『幸運〔ディシュティ〕なるかな!』
 二人の仲間はアシュヴァッターマンを祝福のうえ、後者は重ねて抱擁を受けました。
 歓喜に包まれながら、後者はこう言ったのです――
『全パンチャーラ族は殺戮された、ドラウパディーの息子たち全員もだ!
 全ソーマカ族も、マツヤ族の生き残りも全員、同様に私に殺されたのだ!
 成果を戴いて、我々は遅滞なく陛下〔ドゥルヨーダナ〕の居るところへ行こう。
 もし陛下がまだ生きていたら、この喜ばしい報せを伝えよう!』」
 


*1 原文注001: パンチャーラの王侯の一人、ユダーマニユの兄弟
*2 原文注002: パンチャーラの王侯の一人、ウッタマウジャスの兄弟
*3 訳者注001: パンチャーラの王侯の一人、ユダーマニユの兄弟
*4 訳者注002: パンチャーラの王侯の一人、ウッタマウジャスの兄弟