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Translation/Padma_Purana/05_0074

アルジュナの願望とその成就

パドマ・プラーナ(蓮の古伝説)

第05巻 パーターラ・カーンダ(地界編)

第0074章 「アルジュナの願望とその成就」

(以下から和訳)

Motilal Banarsidass Publishers

Ancient Indian Tradition and Mythology (Vol. 44)

Padma Purana Pt. 06

[05] 0074. Arjuna's Wish and Its Fulfilment

https://www.mlbd.com/BookDecription.aspx?id=150

 


 或るとき、主〔クリシュナ〕に敬愛をもって付き従う、栄光あるウッダヴァ〔*ヤーダヴァ族の一人。クリシュナの友人にして相談役〕は、サナトクマーラ〔ブラフマーの息子〕に、密かに問いかけた。

「常に神々の居ますところである、かの偉大なる場所は、どこにあるのでしょうか。ゴーヴィンダ〔クリシュナ〕は、どこで牛飼娘たちと日々の愛の戯れをするのでしょうか。

 貴方が私に好意をお持ちなら、【ゴーヴィンダの】愛の戯れのことを、また、それ以外の素晴らしい全てのことについてを、どうか教えて下さい。貴方がそれをご存知なら」


 サナトクマーラは答えて言った。

「時宜があれば、私は語ってきた。

 高貴なるアルジュナ、正しき誓いの、主〔クリシュナ〕に付き従う彼が、或るとき、ヤムナーの河辺、とある樹の根本に座して、目にしたこと、成したことを――彼が独り経験したことを。

 私は貴方にそれを語ろう。くれぐれも注意深く聴きなさい。だが、その話をそちらこちらに漏らしてはならないよ」


*****


 アルジュナは問うて言った。

「慈悲深き海のようなひと、主よ、シャンカラ〔シヴァ〕でさえ、ブラフマーでさえ、いかなる余神でさえ、見たことも聞いたこともないことを全て、どうか快く私に教えて下さい。そのことについて、貴方はかつて何か話したことがありますか?

 牛飼妻たちは、貴方の愛を注がれている。彼女たちは、どれほどの種別があるのでしょう? どれほどの人数がいるのでしょう? 彼女たちの中に、何人の母親がいるのですか?

 彼女たちは何者なのでしょう。どこに居るのでしょう、どこに住んでいるのでしょう。彼女たちは、どのような行為をしているのですか?

 主よ、彼女たちの年齢は? 彼女たちの服装は? 主よ、一体だれと、一体どこで、貴方は密かに遊び戯れるのですか? 永遠なる数多の森、永遠の幸福と永遠の崇高をたたえた森の中で。その永遠にして偉大なる場所は、どこにあり、どのような場所なのでしょうか。

 【私に対する】そのような厚情が、貴方におありなら、どうか私に、それらを全て教えて下さい。栄光あるひと、苦しむ者の苦しみを滅ぼすひと。どうか私に、全ての秘密を教えて下さい。私が、問うたことも、知ったこともなかった秘密を」


 主〔クリシュナ〕は答えて言った。

「かの場所は私の場所、かの女たちは私の愛する者たちだ。それこそは、私自身の生命と同然の【クリシュナにとって大切な】男たちでさえ計り知ることのできない、我が愛の戯れだ。――というのが真実さ。

 愛しき者よ、そのことについて話をしたら、君はそれを見ることを熱望することだろう。だが、ブラフマーにも他のいかなる神にもできないものを、余人がどうして見ることができる?

 だからね、愛しき者よ。【それを願うことは】止めておきなさい。それを得られなかったところで、何なんだい?【君が何を失うっていうんだ?】」


 このような、主〔クリシュナ〕の非常に恐威的な言葉を聞くと、アルジュナは、力無く、杖が倒れるように、蓮のような両足の下に崩れ落ちた。

 崇敬を受ける主、信愛者〔彼を信愛する者〕に対する愛情深きひとは、彼〔アルジュナ〕の腕を取って、その身を引き起こすと、大いなる愛を込めて言った。

「今、それについての話をして何になるんだい? 君は、それを見に行くんだろうに。

 大いなる献身によって、かの燦然たる女神――トリプラスンダリ〔*「三都の美神」の意味。シヴァ神妃と同一視される女神〕を慰撫するんだ。彼女は、万物が生じたところであり、今なお在るところであり、やがて帰するところ。その彼女に、君自身を供するんだ。

 彼女の力無くして、私は君にその権利を与えることはできない」


*****


 このような主の言葉を聞くと、アルジュナは、瞳を歓びの光で満たして、燦然たる女神トリプラの膝元に出向いた。

 その地に至って、彼は見た。欲望を掻き立てるような珠玉の祭壇を、多彩な宝石によって造られた、装飾を凝らした階段を。

 そこにまた、無数の花と果実の重みにたわんだ、欲望をかき立てる樹木。それは、あらゆる季節を通して柔らかな、流れ落ちる蜜の雫を滴らせた、あえかに風に搖れる、そのような葉を繁らせた枝によって輝くようだった。

 そこ【その樹木】から、鸚鵡《おうむ》、郭公の群れ、鶫《つぐみ》に鳩、さらに、陽気な鶉《うずら》、諸々の愛らしい鳥たちの声が鳴り響いていた。

 その根元にある、神聖かつ驚異たる、珠玉の神殿は、目眩い宝石の光に輝いて、野火のように魅惑的だった。そこにある珠玉の玉座は、目眩い黄金で造られた、心を奪うような、驚異的なものだった。


 アルジュナは恭しく言った。

「私はアルジュナと呼ばれる者です」

 そして、掌を重ね合わせて繰り返し礼拝して、女神に対する献心で己を満たした。

 かの女神は若き【黎明の】太陽に似て、数多の装身具に飾られ、瑞々しい若々しさを備えている。蔓草のような四本の細腕は、矛を、輪縄を、弓を携えて輝いている。

 彼女は、非常に満足気で、魅惑的だった。その蓮のような足は、ブラフマー、ヴィシュヌ、マヘーシャ【シヴァ】たち、諸々の神々の冠の宝玉の光によって輝いていた。

 彼女は、アニマン【*原子のように微細な神力】のような力に包まれて、離れた場所に座っていた。その女神、慈悲深き宝のようなひとは、彼の崇拝と善き心根、そして想念による克己を知って、優しく語りかけた。


 女神は語りかけた。

「坊や、施物を受けるに値する人に、貴方はどのような貴重な施物を喜捨したことがありますか? 貴方はどのような犠牲を供したことがありますか?

 この世で、どのような苦行を貴方は積んできたのですか? 今までに、どのような献身が貴方によって果たされましたか?

 どのような、困難で、吉祥で、偉大なる行為を成し遂げたのですか?――それによって、主が、こうして実際に、快く貴方に恩寵を与えてしまうような。至上の秘密である恩寵、あらゆる余人に得られたことのない恩寵を。

 坊や、普遍の御方〔クリシュナ〕が、貴方にくださった恩寵は、死の国の人々にさえ、地上に生きる人々、天上の神々などにさえ、くだされたことのない恩寵なのです。そして、最上の苦行者であり、捕らえがたい真理の瞑想に耽る、かの方の信愛者たちにさえ。

 ですから、さあ。私の座である、かの湖を経て、その力に頼りなさい。この女神が、全ての願望を満たします。女神と共に行きなさい。作法に則り、そこで沐浴をして、速やかにここに戻ってくるのです」


 そこで、アルジュナはその湖に行くと、沐浴をして、言われた通りに戻ってきた。女神は、沐浴をして戻ってきた彼に、ニヤーサ【*身体のさまざまな部位を、それぞれ異なる神に、精神的に割り当てること。通常、祈念と対応する仕草を伴う】、ムドラー【*指で印を結ぶこと。神聖な崇拝、献身において慣行される、定められた指の形】などの礼拝を捧げさせた。

 また、彼の右の耳に、バーラーヴィドゥヤーという伝承を語り聞かせた。それは、ただちに成功をもたらす、偉大なる、シヴァの半身【パールヴァティー】に至る、唯一無二の、あらゆるものに引き立てられた伝承であった。

 【女神は、アルジュナに】5洛叉の回数〔*1洛叉=10の5乗分=10万回。5洛叉=50万回〕にわたり、神聖な苦行をさせ、崇拝をさせ、祈りを唱えさせた。

 夾竹桃《カラヴィーラ》の蕾を用いて、作法に則り、【崇拝の】儀式を執り行うと、女神は、優しく彼に語りかけた。

「このような作法で、私を崇めなければなりません。それにより、私が満足して初めて、私の恩寵により、貴方はクリシュナの戯れの権利を得るのです。この規則は、かつて主自身〔クリシュナ〕により規定されたものなのです」


 このような話を聞いて、アルジュナは、かの女神をその賛歌で崇拝した。礼拝と誦唱を執り行い、女神を満足させた。吉祥な犠牲の儀式をして、作法に則って沐浴した。自身が祝福され、ほとんど全ての願望が満たされ、あらゆる成功が我が手に帰したように、アルジュナは感じた。


 ここに至って、女神は彼に近寄り、微笑をたたえながら、彼に語りかけた。

「坊や、今こそ、かの〔主の〕住処の中に入るのですよ」

 計り知れない歓喜に満たされて、アルジュナは、慌ただしく、嬉々として身を起こすと、杖が倒れるように〔平伏して〕、女神に敬服の念を表した。

 女神に命じられて、アルジュナは、女神の友と連れ立って、到達者《シッダ》でさえ到達できぬ、ラーダーの主〔クリシュナ〕の住処に向かった。

 彼は、ゴローカ〔*「牛の天界」の意味。クリシュナの司る天界〕の高みに在る、ヴリンダーヴァナの森〔ラーダーの森〕に通された。其処は安定した、風によって支えられた、永遠の、あらゆる幸福の在処だった。その場所で、クリシュナと牛飼娘たちの舞踊の響宴は、絶えず続くのだった。

 彼〔アルジュナ〕は、愛の感情に満たされた、偉大な秘密を目の当たりにした。


 かの女神の【命じる】言葉に従うことによって、彼だけが、その秘密を目の当たりにしたのである。

 高まる愛に圧倒され、我を忘れてしまい、彼はそこに倒れ込んだ。辛うじて正気を取り戻すと、女神に腕を取られながら、彼は身を引き起こされた。彼女の慰撫の言葉により、彼は何とか落ち着いた様子になった。

「私は他に、どのような苦行を実践するべきか、教えて下さいますか?」

 このように、彼〔クリシュナ〕に会うことを切望する想いに満たされて、彼〔アルジュナ〕は不安定になっていた。女神は、彼を腕に抱き支えて、その場所の南方へ向かった。


 素晴らしき地域に沿って進みながら、女神はこのような言葉をかけた。

「アルジュナ、沐浴のために、この湖に入りなさい。吉祥にして、豊かな水をたたえた、中央に蕾を付けた千の花弁の蓮の形、四つの滝と四つの河を持つ、数多の神秘に満たされた湖に。その湖の中に入れば、貴方はその特別な性質を理解することでしょう。

 その湖の南方がこの湖です。マドゥーカの樹から、酔いをもたらす蜜と酒精が滴っています。それによって、マラヤ山から流れる河が名付けられたのです。

 この地は花々に満ちています。春の頃になると、クリシュナはここで、愛の神を讃えて、春の花々を山と積んだ、春の祭典を催すのです。

 信愛者たちはここで、昼も夜も、クリシュナの化身を崇め讃えます。純粋な想念により、苦行者の心の中に、愛の芽吹きが起こるのです。

 さあ、この湖で沐浴を行いなさい。それから東の湖の畔に行って、その湖の水で沐浴なさい。そして、貴方の願望を成就するのです」


 その〔女神の〕言葉を聞いて、アルジュナは湖の水に身を沈めた。

 その湖は、白い蓮、昇る月の下で開く蓮、紅と青、諸々の蓮から落ちた花粉で、染め上げられていた。その湖は、蜜の雫で芳しく香っていた。豊かな身をした白鳥たちの鳴声で、さざめいていた。四方の畔は宝石で飾られていた。優しい微風によって、漣波が立っていた。

 女神は、その場でかき消えた。

 うるわしく微笑むひと〔アルジュナ〕は、身を起こして、周囲を見回すと、困惑に暮れた。――「彼」は、たちまちのうちに、驚嘆すべき、素晴らしき女性となり果てた、己の姿を見出したのである。

 その華奢かつ、均整のとれた、魅惑的な躰は、純金の光芒のよう。その年頃は咲き誇る青春。その顔《かんばせ》は中秋の名月に似て。その髪は黒々と、豊かに巻いて、艶々と。飾られた宝石で、星が灯る。滑らかな皿のような額にうち掛かる巻き毛の一房は、鉛丹で描かれた緋の印の色彩《いろどり》に照らされるよう。

 蔓草のような眉が描く弧の鮮やかさは、愛神《カーマ》の弓を凌ぐ。鶺鴒のような瞳は、雷雲の如く暗く、悪戯な稲妻が煌めく。円やかな頬に、耳朶を飾る宝石の、明るい光沢が射し込む。蔓草のような腕は、蓮の茎のように繊細で、新芽のような手は、秋の蓮でさえ色褪せる。

 巧みに装いを凝らされた、黄金の腰帯を身に纏い、しゃらしゃらと鳴り響く腰巻が目映い。美しい尻の稜線は、絢麗《けんれい》な綾衣《あやぎぬ》に覆われて、蓮のような足は、宝石の足環の奏でる音で、耳を蕩かした。

「彼女」は、あらゆる愛の技を、おのずから修めていた。すべての美質に恵まれ、すべての装具に飾られていた。

 牛飼娘たちの恋人〔クリシュナ〕がもたらした幻力のために、「彼」は、彼の元来の躰が備えていたものを、何もかも忘れ去ってしまったのだ。そして、この上なく唖然として、途方に暮れたまま、その場に立ち尽くしていた。


*****


 そうするうち、突然、天上から重々しい声が聞こえてきた。

「美しい女よ。ここを過ぎて、東の湖に向かうがいい。その湖の水で沐浴して、汝の願望を成就するがいい。麗しい顔のひとよ。そこに汝の友がいる。消沈してはいけないよ。その者たちが、その場で、君の願望を成就してくれるだろう」

 このような神の言葉を聞いて、彼女は東の湖に向かった。その湖には、数多の素晴らしい沢があった。数多の鳥が群がっていた。揺れる白い蓮、月光の下で花開く白い蓮、ありふれた蓮、揺れる青い蓮、紅玉〔のような紅い蓮〕で輝いていた。蓮に覆われた素晴らしい岸辺があり、四方の岸辺は、数多の美しい蔓草の棚、豊かに花々を実らせた樹木で飾られていた。

 そこで沐浴しながら、彼女はしばらく立ち尽くしていた。やがて、彼女の耳に、鳴り響く腰巻と甘美な足環に帯びられた、小さな鈴の音色が聞こえてきた。


 そこで、〔アルジュナは〕うら若い娘たちの一群に出会った。彼女たちは若々しく、見事な装具を身に纏い、容姿も弁舌も肢体も、申し分なかった。彼女たちは比類なく、艶めく身振りは等しく麗しい。その会話は面白く、笑い声も眼差しも感じが良い。その美貌は甘美にして、あらゆる甘美な性質を備えており、聡明な魅力は最上級に値する。驚嘆すべき美しき者たち、光り輝く美貌、心ばえも何もかも、神秘の宝庫、佇まいの何もかもが素晴らしい。

 この偉大なる驚異を目の当たりにすると、彼女〔アルジュナ〕は、胸中にやや考え込んで、爪先で地面を削りながら、顔を俯けて、その場に立ち止まってしまった。彼女〔牛飼娘〕たちは、慌てて顔を見合わせた。

「この女性はだれ? 私たちの仲間に相応しい、絶え間なく、好奇心をかき立てる女性は?」こうして彼女を見詰めて、しばらく考え込んだ。「私たちは彼女のことを知るべきだわ」

 賢明な彼女たちは、考慮の結果、好奇心から、彼女を見に近寄ってきた。彼女たちの一人、プリヤムダーという、賢き娘が、彼女〔アルジュナ〕に近付いて、甘やかな言葉と愛情を込めて語りかけた。


 プリヤムダーは問い掛けた。

「貴女はどなた? 誰の生んだ娘、誰の愛する人? どこで生まれた人ですか? 誰が貴女をここに連れてきたのですか、貴女自身の力でここに来たのですか? これらのことを、全て私たちに教えて下さい。不安が何の役に立つのですか、この偉大なる歓喜に満ちた地で、誰かを悩ませるものが存在するのですか?」


 このようにプリヤムダーに問い掛けられて、彼女〔アルジュナ〕は、謙虚さから一礼した。そして、彼女たちの心を惹き付けるような、甘やかな声で話し始めた。


 アルジュナは答えて言った。

「私は、何ひとつ判らないのです。私が誰なのか。誰の生んだ娘なのか、誰の愛する者なのか。誰が私をここに連れてきたのか、私自身の力でここに来たのか。ですが、大女神であればそれを御存知かもしれません。

 信じて下さるなら、どうか私の話をお聞き下さい。この地の南に、湖があります。私はその湖に沐浴に行って、その湖に留まるうちに、〔崇拝の沐浴に〕大変夢中になっておりました。やがて、周囲を見回すと、天上から神々しい声が聞こえてきました。

 『美しい女よ。ここを過ぎて、東の湖に向かうがいい。その湖の水で沐浴して、汝の願望を成就するがいい。麗しい顔のひとよ。そこに汝の友がいる。消沈してはいけないよ。その者たちが、その場で、君の願望を成就してくれるだろう。』――と。


 このような言葉を聞いて、私はその湖からこの地へやって来たのです。私の心は、憂愁と歓喜に満ちています。私は、不安に圧倒されています。その湖の水で沐浴してから、私はこの地へやって来たのです。そして、数多の吉祥な音を耳にして、貴女たちに出会いました。身体も、精神も、言葉も、偉大なるひとたちに。私に判ることはこれだけです。

 尊敬すべき女性たちよ、貴女たちの望む通り、これだけのことを、私はお話いたしました。貴女たちはどなたですか? 誰の生んだ娘なのですか、どこで生まれた方なのですか、誰の愛する方なのですか?」


 彼女の言葉を聞いて、プリヤムダーは答えて言った。

「よろしいことです! 吉祥なる女性よ、私たちは、『かの方』の愛する者です。私たちは、ヴリンダーヴァナの月の君【クリシュナ】と、幸福に遊び戯れる娘たちです。私たちは、自ら歓びを感じるが故に、牛飼娘として、この地にやって来たのです。この女性たちは、聖典に記された方々であり、一方この女性たちは聖賢です。私たちは牛飼娘です。これで、私たちの本質を貴女に語りましたよ。


 私たちは、自らの歓びがゆえに、ラーダーの主〔クリシュナ〕の最愛の存在たるのです。私たちは、常に思い思いに遊び、動き、戯れています。

 こちらは女神プールナラサー、こちらはラサマンタラー、この方はラサーラヤーという名、そしてこちらはラサヴァッラリー、こちらはラサピーユーシャダーラー、こちらはラサタランギニー、そしてこちらはラサカッローリニー、そしてこちらはラサヴァーピカー、こちらはアナンガセーナー、そしてこちらはアナンガマーリニー、この若い娘はマダヤンティー、そしてこちらはラサヴィフヴァラー、こちらはラリターという名、そしてこちらはラリタヤウヴァナー、そしてこちらはマダナマンジャリー、こちらはカラーヴァティーという名、そしてこの方はラティカラーとして知られる方、こちらはカーマカラーという名、こちらはカーマダーイーニー、この若い娘はラティローラー、そしてこの若い娘はラトーツカー、そしてこの方はラティサルヴァスヴァー、そしてこの方はラティチンターマニー。

 彼女たちは、常に歓びに溢れ、常に愛を捧げています。この他また、聖典に記された方々がいます。彼女たちの名前をお聞きなさい。

 この方はウドギーター、この方はスギーター、この愛らしい方はカラギーター、この若い娘はカラスラーと呼ばれる方、この若い娘はカラカンティカー、この方はヴィパンチー、この方はクラマパダー、この方はバフフターとして知られる方、こちらはバフプラヨーガーとして知られる方、この娘はバフカラーと呼ばれる方、この方はカラーヴァティーと呼ばれる方、そしてこの方はクリヤーヴァティーとして知られる方。

 この他また、聖賢たちがいます。彼女たち〔の名前〕をここに――

 この方はウグラタパーという名の方、この方はバフグナーとして知られる方、この方はプリヤヴラターという名、そしてこの方はスヴラターと言われる方、この方はスレーカーとして知られる方、この若い娘はスパルヴァーとして知られる方、こちらはバフプラダー、この方はラトナレーカーと呼ばれる方、この方はマニグリヴァーとして知られる方、そしてこの方はスパルナー、そしてこの方々はアーカルパー、スカルパー、ラトナマーリカー、この美しい眉の娘はサウダーミニー、そしてこの方はカーマダーイーニー、そしてこの方はボーガダーと呼ばれる方、この貞節なる方はヴィシュヴァマーター、この方はダーリニー、そしてこちらはダートリー、この方はスメーダー、そしてこの方はカーンティー、この方はアパルナー、この方はスパルナーとして知られる方、そしてこの方はスラクシャナー、この方はスダティー、この方はグナヴァティー、そしてこの方はサウカリニーとして知られる方、この方はスローチャナーと呼ばれる方、そしてこの方はスマナーとして知られる方、この方々はアシュルター、スシィーラー、そしてラティスカプラダーイーニーとして知られる方。

 次に私たち、ここにいる牛飼娘たちです。


 蓮のような顔のひとよ、彼女たちと知己におなりなさい。

 この方はチャンドラーヴァティー、この吉祥なる方はチャンドリカーとして知られる方、こちらはチャンドラーヴァリー、この方はチャンドラレーカー、そしてこちらはチャンドリカー、この方はチャンドラマーラーと呼ばれる方、そしてこの方はチャンドラリカーとして知られる方、こちらはチャンドラプラバー、そしてこの娘はチャンドラカラーとして知られる方、この方はヴァルナーヴァリー、この方はヴァルナマーラー、この方はマニマーリカー、この方はヴァルナプラバーと呼ばれる方、この方はスプラバー、この方はマニプラバー、この方はハーラーヴァリー、この吉祥なる方はターラーマーリニー、この方はマーラティー、この方はユーティー、この方々はヴァーサンティー、そしてナヴァマッリカー、この方はマッリー、この方はナヴァマッリー、この方はシェーパリカーとして知られる方、この方はサウガンディカー、この方はカストゥーリー、この方はパドミニー、この方はクムドヴァティー、この方はラソーッラーサー、この方はチトラヴリンダー、この方はスレーカー、この方はスヴァルナレーキカー、この方はカーンチャナマーラー、そしてこの方は貞節なるアサンタティカー。

 彼女たちがみな、貴女を取り巻いています。この他また、貴女に紹介されるべき方々がいます。美しき、若き娘《ひと》よ。私たちと共に、この方たちと共に、自ら歓びなさい。東の湖の畔にいらっしゃい。そこで、我が友よ、作法に則って貴女を沐浴させてから、貴女のために讃歌を捧げて、願望の成就をもたらしましょう」


 こうして、彼女〔アルジュナ〕を、ただちに湖に連れていき、作法に則って沐浴させてから、適切な儀式に従って、かつ手短に、ヴリンダーヴァナの月の君〔クリシュナ〕の愛する者たちによる、素晴らしい聖歌を、彼女に享受させた。

 その聖歌は素晴らしく、水天ヴァルナを賛える歌の萌芽であり、火天アグニを崇める歌の種火だった。第四の音階が賦与されて、音律の観点で修飾された、プラナヴァ〔神聖な音節〕の間を縫うような、三界において非常に得難いものだった。

 あらゆる願望の成就が、その聖歌をひたすら享受することで、もたらされるのだった。燃え盛る供物とともに、神の名が繰り返された。瞑想が執り行われた。数多の犠牲が執り行われた。祈り手の吟唱により、数多の成就がなされた。

 新たな友人たちと共に、彼女〔アルジュナ〕は、歓びをもって、女神を礼賛した。かの女神の身体は、熱した黄金のように端正だった。女神は、数多の装具に飾られていた。その姿態と美貌は素晴らしく、女神は非常に満足気だった。

 適切な儀式に従って、女神は恩恵を与えた。〔女神に捧げられた〕白い蓮、夾竹桃《カラヴィーラ》の花、金厚朴《チャンパカ》の花、諸々の蓮の花、他の芳しい花々や他の芳しい供物、足を洗う水、口を漱ぐ水、魅惑的な香と灯り、そして数多の食物によって。

 彼女は、1洛叉の回数〔*1洛叉=10の5乗分=10万回〕、聖歌を繰り返した。適切な儀式に従って、奉納を執り行った。女神を礼賛して、杖が倒れるように、地面に平伏した。


 瞬きひとつなく、憧れをもって、女神は礼賛された。女神は、幻力により自らの影を創造して、言うなれば敢えて無理を押して、信愛者〔アルジュナ〕を自らの近くに招いた。新たな友人たちに囲まれながら、彼女〔アルジュナ〕は歓びに包まれた。崇拝と、祈り手の吟唱と、聖歌と、敬虔な礼賛により、女神〔*クリシュナの寵愛者である牛飼妻ラーダー〕は恩恵のために姿を顕した。

 彼女の顔貌は、黄金または金厚朴《チャンパカ》の花の如く。美しい装具により輝いていた。彼女の姿態は、四肢それぞれの見事な造形により、可憐だった。彼女の面貌は、中秋の名月のように美しかった。彼女の微笑と容姿は、柔和で純朴だった。彼女は、三界のすべてにおいて魅惑的だった。彼女の放つ輝きにより、十の方向が明るく照らされるようだった。

 女神は、崇拝者たちに、恩恵と慈愛を向けながら語りかけた。


 女神は語りかけた。

「我が友の言葉は、真実となります。そして、貴女は私の親愛なる友です。お立ちなさい、一緒にいらっしゃい。貴女の願望を成就しましょう」


 アルジュニー〔アルジュナの女性形〕は、心の憧れである女神の言葉を聞くと、その肢体は、新芽が吹き零れるような鳥肌により、可憐に彩られた。その両眼は、涙が溢れんばかり。再び信愛の念に圧倒されて、彼女は女神の足元に平伏した。

 女神は、彼女の友人である女神プリヤムダーに、次のような言葉を掛けた。

「彼女〔アルジュニー〕の手を取って、元気づけて、私の傍に連れておいでなさい」

 プリヤムダーは、女神の命令にひたむきにしたがった。言われた通り、彼女〔アルジュニー〕の手を取って、女神の傍に連れてきた。

 ハリ〔ヴィシュヌ≒クリシュナ〕の寵愛する女神は、北の湖の畔に向かった。作法に則った沐浴を、適切な儀式に従った礼拝を、彼女〔アルジュニー〕に執り行わせた。厳粛な誓願に先立って、聖なるゴークラの月の君〔クリシュナ〕の賛歌を、素晴らしき願望の成就をもたらす聖歌を、彼女に享受させた。

 この請願は、ゴークラナータと呼ばれるもの、歴史古く、モーハナ〔*惑わす者。クリシュナのこと〕により成立させられたものである。この聖歌は、あらゆる願望の成就をもたらすもの、魔術と神秘の法を語る教典に記されたものである。

 女神は、ゴーヴィンダ〔クリシュナ〕の賛歌を知悉するひとは、彼女〔アルジュニー〕に強固なる信愛をもたらした。女神は、瞑想すること、賛歌の王を唱えることを、彼女に説き聞かせた。その賛歌は、モーハナと呼ばれる教典に記されたもの、心想うだけで願望の成就をもたらすもの。

 ひとは、彼の方をひたすら心想うべきなのだ――青蓮の花弁のような黒い姿、数多の装具に飾られた姿、千万の愛神《カーマ》のような美を身に持った、愛に満ちた彼の方〔クリシュナ〕を。斎戒のなか、女神はこのような秘儀をプリヤムダーに語り聞かせた。


 聖なるラーディカー〔ラーダー〕は言った。

「彼女〔アルジュニー〕の神聖な入門の儀式が終わるまで、よく気を配って、友人たちと一緒に、彼女を助けておあげなさい」


*****


 自身の幻影と信愛者たちを、その場に残して、ラーディカーは、クリシュナの蓮のような足の傍に赴いた。クリシュナの寵愛するひと、ラーディカーは、元のように、その傍に赴いた。

 一方、プリヤムダーの助言にしたがって、彼女〔アルジュニー〕は、八枚の花弁を持つ吉祥な蓮を用意した。素晴らしくかつ吉祥なる聖歌を、成就をもたらす神秘なる図形を、サフランとサンダルを混ぜ合わせた、輝かしい黄色の顔料で、それに書き記した。

 ニヤーサ〔*身体のさまざまな部位を、それぞれ異なる神に、精神的に割り当てること。通常、祈念と対応する仕草を伴う〕などの礼拝を執り行って、作法に則って、足を洗う水、礼拝の供物などを捧げた。

 季節の花々、サフランとサンダルの香と灯り、食料の供物、タームブーラ〔*いわゆる蒟醤。噛んで薬用などに使用する葉〕、口を芳しくする香料、衣装、装具と花々などをもって、ナンダの息子〔*クリシュナのこと。ナンダはクリシュナの育ての父〕に礼拝を捧げた。

 全ての信愛者たちと共に、諸々の武器、諸々の戦車と共に、彼の方〔クリシュナ〕を崇め賛えて、作法に則って礼拝しながら、彼女は彼を一心に想い念じた。

 ヤショーダーの息子〔*クリシュナのこと。ヤショーダーはクリシュナの育ての母〕たる彼の主は、信愛に心動かされて、微笑と、波の打つような目配せと、思考をもって、女神ラーディカーに語りかけた。

「早く、彼女をここに連れておいで」

 女神は、このように命じられて、友人であるシャラダーを呼びに遣わした。シャラダーは、かの遊び戯れるひと〔クリシュナ〕の御前に、たちまち、アルジュニーを連れてきた。

 聖なるクリシュナの御前に来ると、アルジュニーは、信愛の念に圧倒され、あらゆる素晴らしい存在を目の当たりにして、黄金のようになり、地面に崩れ落ちた。困難のすえ、辛うじて正気を取り戻すと、ゆっくりと眼を開いて、汗と、鳥肌と、震えに身を苛まれながら、その美しく魅惑的な地を目の当たりにした。


 欲望を掻き立てる樹木があり、輝ける翠玉のような葉を、芽吹く枝葉を繁らせていた。繊細で、幹は黄金、芽と根は水晶のよう。欲望に叶う豊かな実りを、欲に望ましい果実を垂れ下げていた。

 その根元には、珠玉の神殿、珠玉の玉座。八枚の花弁を持つ蓮があり、左右には、二種の至宝【*クベーラの九種の至宝「ニディ」のうちの二種】、すなわち法螺貝《シャンカ》と蓮《パドマ》が置かれていた。四方には、欲望に叶う牝牛が適切に置かれていた。

 その周囲には、神の庭ナンダナのような庭園があり、マラヤ山の薫風に恵まれていた。季節の花々の麗しい香りに満たされて、白檀《カーラーガル》の馨しさを凌いでいた。そこは、降り注ぐ蜜の雫によって清涼であり、非常に甘美だった。そこにある装飾品は、蜂蜜に酔い痴れた雌蜂の群の羽音で、絶え間なく鳴り響いていた。

 その場所には、郭公、鳩に鶫《つぐみ》、雌鸚鵡《めすおうむ》、そして葉陰にいる他の諸々の鳥の、甘い鳴声が響き渡っていた。発情した孔雀の舞に満たされて、愛の熱情を掻き立てていた。溢れ出る果汁により、目薬を点されたような、薄闇の美しさだった。


 彼女〔アルジュニー〕はクリシュナに目見《まみ》えた――

 その艷やかで、黒々として、豊かに巻いた、馨しく薫る髪。その頭に結ばれる、狂気に酔い痴れた孔雀の、最高の尾羽。その左の耳朶を飾る、蜜蜂の群がる花飾り。黒蜂のような髪の色彩《いろどり》に照らされて、その頬は鏡のように輝く。

 印を描いた秀でた額が、眩いばかりの美しさ。鼻梁は、胡麻の花か猛禽の嘴のよう。口唇は、魅惑的で頻婆果〔鮮やかな紅色の果実〕のよう。柔和な微笑をたたえながら、愛の情熱に燃えたっていた。

 喉元に野花に見紛う首飾り、幅広の両肩に神樹の花飾り、群がる幾千の酔い痴れた雌蜂。胸元に煌めく真珠、カウストゥバの宝珠。シュリーの愛する者の印〔*ヴィシュヌの印。胸にある渦巻の印〕を持つひと。

 膝まで垂れ下がる腕は優婉、獅子のような腰付き、深い臍の窪みは端麗。良質な樹木のように、長過ぎず丸みを帯びた膝。見事な腕環、脚環、装具に身を飾られて、腰は黄色の衣の裳裾で覆われていた。

 蠱惑の美貌により、千万の愛神《カーマ》を打ち敗かすひと。奏でる笛の旋律により魅了するひと。三界を至福の海に沈めるひと。全身に愛神《カーマ》の傲る性質を具えたひと。舞楽に心惹かれて退屈したひと。

 神々が銘々の座に配され、彼〔クリシュナ〕の内心を覗い、彼の表情を見詰めながら、順々に、敬意をもって、個々に供物を持ち寄った――払子、扇子、花に香、白檀《サンダル》、蒟醤《タームブーラ》、鏡、盃、壺、諸々の遊び戯れるための道具、乳香や護符を。

 アルジュニーヤー〔アルジュニー〕は、輝く微笑の彼〔クリシュナ〕に、蒟醤《タームブーラ》を差し出して慰撫する、麗しの女神ラーディカー〔ラーダー〕の左隣で、困惑した様子で、愛の情熱に圧倒されていた。

 全てを知るひと、聖クリシュナは、彼女〔アルジュニー〕のそのような様子に気付くと、彼女の手を掴み捕えて、――主は――偉大なる神秘の御業の使い手は、歓びの森のあらゆる場所で、彼女と密かに遊び戯れた。

 やがて、悪戯な腕を彼女の肩に置いて、シャラダーの元にやって来ると、〔クリシュナは〕彼女に言い付けた。

「この華奢な身体のひとを、柔和な微笑の、遊び戯れて疲れ果てたひとを、ただちに沐浴させてあげなさい。この西の湖で」

 そこで、女神シャラダーは彼女を西の湖に連れて行くと、「沐浴をなさい」と、彼女に言い付けた。疲れ果てたひと〔アルジュニー〕は、言われた通りにした。

 湖の中に入った彼女は、再びアルジュナの姿に戻って、神々の君主が、美しき天界ヴァイクンタの主〔ヴィシュヌ≒クリシュナ〕が、傍に立っている場所に身を起こした。アルジュナが落胆して喪心している姿を目にして、クリシュナは彼の手に優しく触れて、彼を立ち直らせた。


 聖クリシュナはこう言った。

「おお、ダナンジャヤ〔*アルジュナの異名。「財を獲得する者」の意味〕。私は君を祝福しよう、我が最愛の友よ。三界において、君のように私の秘密を知った者は、他に誰一人いない。おお、アルジュナ。もし、君が私に願い経験した秘密を、誰かに話したとしたら、君は私を呪うことになるよ」


*****


 サナトクマーラはこう言った。

「こうして、彼〔クリシュナ〕の恩寵を享受して、誓約を厳守することを決断すると、アルジュナは、歓喜を心に満たして、素晴らしい記憶を胸に抱いて、その地から家に帰った。

 私が知る限りのゴーヴィンダ〔クリシュナの異名〕の秘密を、この通り語り終えたよ。その真偽を、もし貴方が主に問うなら、私は真実を誓おう」


 主はこう言った。

「この物語を聞き終えた牛飼の仲間〔信愛者〕は、成就を享受するだろう。信愛者は、ナラとナーラーヤナ〔*一対の聖仙。ナラはアルジュナ、ナーラーヤナはクリシュナと同一視される〕の天高みにあるヴリンダーヴァナに至るだろう。そこで、クリシュナの日毎の戯れを識り、今日に至るまで過ごすだろう。

 私は、聖仙ナーラダに願われた時でさえ、この秘密を語り聞かせることはなかった。だが、本質の姿に至った時、彼は、それを自ずから得たのだ。

 おお、吉祥なるひとよ。私が恩愛から貴方に語り聞かせた秘密を、貴方自身の知識と同様に、余人に語り聞かせてはならないよ」


 主〔ヴィシュヌ≒クリシュナ〕の信愛者の偉大性を語る、この素晴らしい一節を、目に読みあるいは耳に聞いた者は、ハリ〔ヴィシュヌ≒クリシュナ〕の歓びを得るだろう。


 

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